2005、12、21   反対討論  日本共産党浜松市議団 酒井豊実

 発議第17号 浜松市の政令指定都市の実現に関する意見書 について、反対する討論を行います。

 『意見書』では、「地域の個性を生かした都市づくり」「きめ細かい行政サービスを提供していくためには」、政令指定都市になることが必要だ、とし、そして、「これは、浜松市民挙げての切なる願いである」としています。

 しかし、この文言は市民意識の現状を適切に代表した表現ではありません。政令指定都市移行への市民合意が形成されていることは確認できません。また、大都市になること自体が市民の切なる願いなのではありません。

 企画課が今年9月に発行した『市民からのまちづくり提言』には、139名のインタビューがまとめられています。

 その中で、旧龍山村の郷土文化保存会の男性は、「浜松市は政令指定都市を目指しているけれども、地域の良さをこのまま守っていけるかどうかという点で、希望より心配が多い。」と言っています。

 二俣在住の天竜青年会議所の元理事長は、「都市が大きくなりすぎて、旧天竜や北遠地域が置き去りにされないか心配である。」とし、

 三ケ日町の女性は、『疎外感を少し感じている。』と語り、

 細江町の会社経営者は、「細江町は、都市近郊の非常に住みよい町で、群を抜いた特徴はないが、結果として調和がとれている。」と語り、「なお、北遠地区に都市的近代化の方法を導入すると、人口ゼロになる。」と厳しく指摘しています。

 浜北地域自治連合会長は、「今回の合併には『吸収合併』という印象が強い。浜北から選出される市議会議員が7名に減少したし、防災会議、都市計画審議会にも1名しか出席できないなど、参加の機会が減少している。」と語っています。

 市当局がまとめた『市民からの提言』を見ても、意見書の文言にある、「地方自治法第252条の19に規定する指定都市となることがぜひとも必要であり、これは、浜松市民挙げての切なる願いである。」との市民意識の高まりや全市民の合意形成は確認できないばかりか、逆に大都市化への心配がつのってきている状況ではないでしょうか。

 各地域自治区で開催されている、最近の地域協議会や市長との直接対話では、合併後初の来年度予算編成、学校給食民間委託拡大、幼稚園の定員基準、教育委員会組織の整理・合理化、自治会活動助成金などをめぐって、市民の心配が現実化したものとなっています。

 この事態に追い討ちをかけるかのように、去る18日の『浜松市行財政改革推進審議会』では、合併前の旧市町村の独自制度を残す一市多制度を、一市一制度にすべきだ、との強い意見が噴出しました。

 新聞報道された発言の要旨では、中山委員をはじめ、企業・経済界代表の委員は、「早く一市一制度にむけて、かじを切ることが行革に必要。」「基本の制度は一本とすべき。」と発言し、鈴木修会長は、「一市多制度はなくしていく方向でよいのでは。」とまで主張しました。

 まさにこれは、『合併協定書』を土足で踏みにじるものです。都市内分権を支える三本柱の否定であります。怒りに堪えません。

 これに対して、辻委員が、「それは駄目。あくまでも区の多様性があった方が良いものと、統合すべきものを仕分ける考え方が大切だ。」ときっぱりと発言し、山口委員が、「自主的な事業や郷土の習慣まで一つの制度に収束する必要はない。」と主張したことに、強い拍手を送るものです。

 今回の合併で、最初に浜松市を中心とした大合併による政令指定都市構想を提案し、合併後の今、指定都市移行に向けて推進母体となっているのが、企業・経済界であります。

 『環境と共生するクラスター型政令指定都市』を目指す、という美名に隠されていた、自治体リストラ、小さな自治を大きな市に飲み込んでしまうというねらいが、農村部・過疎地域の消滅への道がいよいよ立ち現れてきました。

 いったい、今回の合併が目指す方向は、農山村部からの公共投資の引き上げであり、それを可能とする体制づくりなのでしょうか。

 先の細江町在住者の指摘、「北遠地区に都市的近代化の方法を導入すると人口ゼロになる。」との言葉が、胸に迫ってきます。 

 このような政令指定都市移行を推進している母体、浜松経済界の意思に、同意することはできません。

 引佐町の元町政モニターは、「市民中心の市政運営をお願いしたい。」と訴え、細江町の若い女性公務員の2人は、「市民主体のまちづくりができたらすばらしい」 と願っているように、経済界とは、まちづくりの考え方が違います。

 資本を集積して、最大利潤追求の市場として都市づくりをするのか、「都市は人間のためにあるべき」として都市づくりをするのかであります。

 『提言集』で、浜松市国際課に勤務して去る8月イギリスに帰国した、ベンジャミン・ジェニングスさんは、「浜松のまちは本当に面白くない。いるところ、行くところが全くない。カフェも少ない、文化施設もない、店もない。中心市街地は、退屈なだけ。全国画一的な郊外店には全く魅力を感じない。」 「もっと浜松らしさを前面に出した都市整備をしていかないと。このまま永遠につまらないまちでいいのだろうか。」と非常に手厳しい、率直な提言をしています。彼はまた、「自然環境を売り物にするなら、馬込川や浜名湖など、もっと整備が必要。普段、人が訪れ、目にする身近な場所がきれいに整備されていなければ、環境と共生する都市を感じることはできない。」とも語っています。

 これは、これまでの浜松市の都市づくりへの実に的を得た批判です。

 政令指定都市に移行するのにふさわしい、主体的・現実的な大都市としての要件、数字では計れない大都市性が備わっているのかどうか、強く問われるところです。
   
 また、『意見書』は、本市が「国土軸の結節点に位置し」、広域な都市圏の中枢拠点都市となることが、「各方面から強く期待されている。」としていますが、新幹線や高速道路の建設をこの国土軸に沿って進めるという国土構造の将来は、果たして未来があるか、であります。

 大型公共事業を中心とした膨大な公共投資によって、従来型の国土構造を維持しようとする考えは、社会的な意味はなく、今の財政状況から、未来がありません。国土計画の基本方向に対して、発想の転換が求められています。

 これから必要とされる国土計画は、国際競争化の進行と企業活動によって生み出される弊害を少なくし、バランスのとれた国土と地域社会を再生することです。国際競争に勝てるかどうかを、都市計画、都市再生のトータルな評価基準にするのではなく、人が人として地域社会を主体的につくり続けて住めるかどうかを、都市づくり・都市再生の評価基準にすべきではないでしょうか。

 人と自然が共生するコンパクトシテイの実現が不可欠です。

 国土軸に位置づける大都市計画の発想には同意できません。

 次に、矛盾が深まりつつある政令指定都市移行型合併と指定都市の財政危機についてであります。

 全国の指定都市が掲げた夢と現実の姿から、指定都市はバラ色ではないことが明らかになってきました。

 現在の指定都市自身が深刻な不況と財政危機に直面しています。

 有名な大阪市の例では、財源不足の原因が、「大都市特有の財政需要」があるなどといって進めてきた大型開発の失敗と第三セクターの経営破綻にあるにもかかわらず、財源不足を人件費の削減や社会福祉費などの見直しで乗り切ろうとしました。

 指定都市の財政破綻は、指定都市になれば財政的に豊かになるなどという言い分を事実でもって否定しています。

 指定都市移行を目指している堺市の財政シミュレーションでは、指定都市の財政需要と不十分な財政措置の実態が明らかにされました。指定都市財政のバランスシートは、3年目からの赤字転落であります。

 浜松市は、「大都市としての条件整備に関する調査」を十分にしているのでしょうか。先の総務委員会審査では、「情報政策推進費」の「政令指定都市システム開発費」の全体がいくらになるのか、説明できなかったとのことですが、詳細な財政シミュレーションをしているのでしょうか。

 堺市の調査報告書は、「政令指定都市移行による財政負担を、基準財政需要額の範囲にまで抑える行政努力を行わない限り、逆に財政状況が悪化する」と結論づけています。

 また、大都市税制の問題点についてであります。

 政令指定都市になると都市としてのグレードが上がり、都市開発が進み、企業誘致も増える。その結果、固定資産税や法人市民税が増加する。これが指定都市移行の効果として期待されるシミュレーションです。

 しかし、この期待の多くははずれる様であります。それは、浜松市の現実である、アクトシティ、ザザシティ、松菱の状況からもわかることであります。   

 また、市街化区域内農地の宅地並み課税の問題は、市民に直接の重税としてのしかかってくるのであります。地方都市のいなかまで大都市課税が強制されるのが、浜松市の政令指定都市移行であります。理不尽そのものだと言わざるをえません。

 次に、区制度の限界・・・区制あって区政なしという現実であります。

 住民自治の観点から見て、限界と多くの問題を持っています。

 公選の議決機関(議会)と課税権などの権力を持つ市政と、「区政」とでは本質的な違いがあります。区の制度はあっても、独自の行政としての「区政」はありません。すでにスタートした地域協議会の実態は、区の政治力になり得ないことを示しています。

 また、 区役所には権限や財源がないと言われますが、財政に特別の制度があるわけではなく、区の収入役を通して集められる多くの歳入額がある一方、区の収入役を通して支出される歳出額は極めて少なく、しかも、経常的経費がほとんどを占めており、いわゆる「手渡し」分は、わずかです。

 区役所の財政は、区役所がまちづくりを含め、市民生活に寄与する機能を持っていないことを表しています。

 政令指定都市の住民自治は、未来に輝くクラスターどころか、地域自治区は早々と摘果され、「干しぶどう」としてさえ生かされない可能性が現実味をおびてきたことを強く批判して、反対討論を終わります。

(2005/11/20up)


   

浜松市の政令指定都市の実現に関する意見書 について、反対する討論